オタク生産メモ

同人誌作る時のメモとか

小説同人誌を出すときに用意するものと決めること

小説同人誌を出すときに、大まかに用意すること決めることを書きました。はじめて本を作るときの参考になればと思います。
 

用意するもの

  • 本文
  • タイトル
  • 奥付に入れる名前と連絡先
  • お金(印刷代)
この4点は本人以外にはどうしようもないことです。頑張ってください。
本文は自分で書くしかありません。がんばりましょう。量ですが、厚みにこだわらなければ数千字でじゅうぶん本になります。本というのは1枚の紙を半分に折った4ページぶんがひとつの単位になっているのですが、究極をいえば本文が4ページ+表紙の紙1枚でも本です。文庫サイズであれば1ページの文字数は1000字に満たない量ですから、5000字もあれば大丈夫です。気軽に出していきましょう。
タイトルも自分で決めてください。診断とかメーカーとかお題の単語を使う場合は本にしていい規約か確認をしましょう。
奥付に入れる名前と連絡先、そもそも奥付とはなにかというと本の(多くの場合)一番最後のページにある「誰が書いてどこで刷ったか明記してある場所」です。印刷所によって必ず入れる必要があるフレーズは異なるのですが、名前と連絡先はほぼ確実に入れる必要があります。名前は別に本名じゃなくていいです。また連絡先をSNSアカウントだけにしたい場面があると思いますが、SNSのアカウントは鍵とかかけられるので必ず連絡がつくメールアドレスが推奨されていることが多いです。Gmailかなんかでいいのでメールアドレスを作りましょう。
お金は用意してください。
 

決める必要があること

  • どの判型(本の大きさ)にするか
  • 本文(扉や奥付もふくむ)のデータをどう作るか
  • 表紙と裏表紙のデータをどう作るか
  • どの印刷所にするか
  • 紙をどうするか
  • PP加工をするか
いろいろありますね。決めやすい順番に見ていきましょう。
 

どの判型(本の大きさ)にするか

本は物理物体なので大きさがあり、印刷のしやすさとかの都合で規格があります。小説同人誌の場合、多くが以下のどちらかです。
  • A5:A4を半分に折った大きさ
  • 文庫:A4を1/4に折った大きさ(=A6)
(そのほかの大きさもありますが、そういうのを作りたい人はこの記事以外を見てください)
小説の同人誌を作りたい人はたいてい同人誌を持っていると思うので、A4のコピー用紙かなんかを半分や1/4に折って手持ちの同人誌と比べてください。手元にない場合は折った紙を比べてください。
なぜ本の大きさを最初に決めるかというと、本の大きさによって使える印刷所が限られたり、デザイナーさん(後述します)に制限が出たりするからです。もちろん大きさは予算とも関わってきます。
A5と文庫のどちらにするかはマジで好みであり、よくツイッターでアンケートがとられていますがメチャメチャ割れていてぜんぜん参考になりません。
しいてメリットを言えば、A5は表紙がデカいので遊べて、1ページに入る文字の量が文庫より多いため紙代が節約できます(印刷代も何ページ印刷するかで変わりますので少し安価に作れます)。文庫は一般的な商業の本に近いかたちに仕上がり、1ページに入る文字の量が少ないため、厚みが出しやすいです。
決めましょう。
 

本文(扉や奥付もふくむ)のデータをどう作るか

小説なのでたぶん字だけですが、入稿するためのデータを作る必要があります。テキストがあればいいわけではなく、
  •  本文のページのデザインを決める(1行何文字なのか、1ページ何行なのか、どの書体(フォント)を使うのか、ノンブル(ページ数を示す数字)はどこに入れるのか)
  •  上のデザインに本文テキストを流し込み、ページ数を確定させる
  •  扉のデザインを決める
  •  奥付のデザインを決める
  •  作ったデータを決まった形式(多くの印刷所ではPDF入稿が推奨されています)で保存する
こういった作業が必要になります。結構あります。やるにあたっては以下の2つの方法があります。
  1. 人に任せる
  2. 自分でやる
見ていきます。
1.人に任せる
本文のデザインを決め、本文テキストを流し込むことを「組版」と呼びます(厳密には違いますが、とりあえずそうだと思ってください)。「小説同人誌 組版」で検索すると、組版を有償でやってくれるデザイナーさんがたくさん出てきます。スキマやココナラといったスキルマッチングサービスを介する場合、BOOTHで商品として購入する場合、Webサイトから連絡する場合などがあります。書き手はテキストを用意すればよく、納品されるファイルの形式はほとんどの場合PDFです。
フローはたいていの場合以下の通りです。
 連絡をとる→見積もる→正式に依頼する→完成している原稿・奥付のテキストを送る→PDFが納品される(修正が可能な場合:→修正依頼をする→修正PDFが納品される)
このあいだのどこかのタイミングでお金を払います。
依頼する前に、あるいは見積もりをとる段階で、以下を確認すると話が早いと思います。
  • 印刷所を決めておく必要はあるか
  • ページ数がわかっている必要はあるか(ページ数によって金額が変わる場合があります)
  • 原稿を送ってから納品まで何日かかるか
  • 修正をお願いできるか(回数、金額、再納品の日程など)
  • 奥付や扉をお願いできるか
  • 代金はどうやって支払うか(各サービス経由・クレジットカード・銀行振込など)
注意点というか限りなく努力することとして、「修正のない原稿・テキストを送る」ことを心がけてください。PDFにしたあとで修正するのは技術的にはできますが、めちゃめちゃ手間がかかります。よろしくお願いします。
2.自分でやる
人にお願いしない場合自分でやることになります。がんばりましょう。
  • 印刷所や個人が配布しているテンプレート(ほとんどがWord)を使う
これが早いです。「(本の大きさ) 小説同人誌 テンプレート」とかで検索すると出てくるやつを使います。たいていWordです。iPad用のPagesとかもたまにある。奥付や扉・目次もテンプレが多く配布されています。印刷所のテンプレートを使う場合は、なるべくその印刷所を使うほうがいいかと思います。他社テンプレートNGの印刷所もありますので気をつけましょう。また「奥付(とか)にクレジット(製作者の名前・サイトURLなど)を入れる」必要がある場合があります。利用規約は絶対読んでください。
  • アプリやWebアプリに用意されたテンプレートを使う
「威沙」「縦式」「TATEditor」など、同人誌制作をサポートしてくれるアプリケーションやWebアプリがあります。テキストを用意するとものすごい勢いで入稿用データを作ってくれるやつです。デザインを自分で細かくコントロールできる/する必要があるものと、テンプレートから選ぶものがあります。テンプレを使うとなにも決めなくて済みます。詳しい操作方法は各アプリの説明を読むか、有志がインターネットに書いている使い方を読みましょう。
書き忘れたのですが「パソコン持ってないのでWordが使えません」という場合、ほぼこれ一択かと思います。
  • 自分でデザインし、なんらかのソフトで作成する
これは沼です。上下左右の余白をどれくらいにするかとか、フォントをどれにするかとか、1行何文字にするかとか、そういうことを全部決めたうえで、それを何らかのソフトやアプリを使って再現する必要があります。めちゃちゃWordが使えるとか一太郎とかInDesignが使える場合はそうしてもいいですがそういう人はそもそもこの記事を読まなくていいですね。自分でデザインする場合、商業本のデザインをまねするのが早いです。A5の2段組については日本には「文芸誌」という小説を載せるのが専門の雑誌がいろんな会社から1000円くらいで出ているので参考になるでしょう。文庫は商業文庫を参考にするのがいいかと思います。そのうえで上記アプリなどを使ってがんばることになります。念のためですがデザインを丸パクすると元デザイナーの著作権を侵害することになるので、あくまで参考にしてください。参考にです。怒られます。
 

表紙と裏表紙のデータをどう作るか

本文が決まったのでそれを包む表紙をどうするか考えます。表紙は1枚の紙であり、表表紙と裏表紙はつながっています。なので実は作るデータは1個でいいです。表紙に絶対入れるべき要素というのは実はないのですが、たいていはタイトルとか書いた人の名前とかジャンルとかを入れます。あなたには決めた本のサイズのほぼ倍の大きさの白紙が与えられています。好きにしていいです。はい。なんもわかりませんね。
絵を描いてくれる人がいたりデザインをしてくれる人がいたりするとラッキーですが、そうでない場合を説明していきます。
表紙も以下のやり方があります。
  1. 人に頼む
  2. 印刷所のサービスを使う
  3. 自分で作る
見ていきます。
1.人に頼む
「同人誌 表紙 デザイン」とかで検索すると膨大な量のデザイナーさんがでてきますが、絵なしで小説をやってくれるデザイナーさんとなるとめちゃめちゃ多いわけではありません。大体のフローは以下の通りです。
 連絡をとる→見積もりをする→正式に依頼する→タイトルなど入れたい要素のテキストを送る→デザイン案をもらう→決める→納品
これも本文のデザインをお願いするときと同じく、
  • 印刷所を決めておく必要はあるか
  • 原稿を送ってから納品まで何日かかるか
  • 修正をお願いできるか(回数、金額、再納品の日程など)
  • 代金はどうやって支払うか(各サービス経由・クレジットカード・銀行振込など)
を確認します。
また表紙特有の事情として
  • 背幅(本の厚み)をデザイナーに伝える
必要があります。
背幅ですが、同じページ数でも使う紙によって厚みは異なります(後述)。紙の厚みは1枚だとほぼ誤差なのですが20枚くらい重なると結構差が出ます。そのため本当は紙の種類とページ数をもとに計算した背幅を伝えなければいけないのですが、デザイナーさんというのは忙しく、たいていは「数か月先に納品してもらう予約」をとることになります。なので依頼の際には「まだページ数と背幅はわからんのですが大丈夫でしょうか」と添えておき、わかり次第(決め次第)伝えることになると思います。
具体的にどういったやりとりでデザインを決めていくかについては各デザイナーさんのお作法があると思いますので、Webサイトとかツイッターとかココナラとかを見てやりましょう。
2.印刷所のサービスを使う
「プリントオン」「しまや出版」ではフルオーダー、「booknext」「しまや出版」ではセミオーダーのサービスがあります。
フルオーダーというのはイチから作ってもらうやつで、セミオーダーというのはある程度決まったデザインに決まったフォントで文字を入れていくやつです。アイディアや完成イメージがある場合はフルオーダーがいいと思いますが、なんかよくわからん、どうにかしてくれ、という感覚の場合セミオーダーのほうが事故が少ないと思います。
3.自分で作る
めちゃめちゃ決めることとやることが多いので省略しますが、自分でも作れます。「canva」などのWebで完結するサービスを使ったり、Wordでどうにかしたり、InkScapeとかのフリーソフトAffinityなどのシェアウエアAdobe税を払ってIllustratorを使う、そういう方法があります。頑張ってください。
 

どの印刷所にするか

本文と表紙のデータの算段がついたので、印刷所を決めていきます。
印刷所はめちゃくちゃたくさんあります。上段で「本文テンプレートを使っている」「印刷所の表紙作成サービスを使っている」場合は考えなくていいですが、そうでない場合説明を解読していくことになります。
決める条件としていくつか判断基準になりそうなものをあげておきます。
  • 印刷方法
  • 表紙で使う色の数
  • 部数の刻み
  • かかる日数
  • いろいろな割引
まず印刷方法です。表紙と本文は別に刷るので、それぞれ以下から選びます。
  • オフセット印刷(大部数に強い・印刷がきれい・比較的高価)
  • オンデマンド印刷(少部数でも刷れる・出来上がりにやや癖がある・比較的安価)
ほぼこのどちらかです。自分が刷れる部数と財布と相談します。出来上がりの癖というのは、オンデマンド印刷はざっくりいうとコピー機と同じ仕組みで、インクではなくトナー(色のついた粉)を使うので、オフセットと比較すると色がのった部分が粉の厚みのぶん盛り上がり、ややテカリがあります。小説の場合本文はほとんど字だけで、文字の部分にしかトナーがのらないため、あまり気にならないことが多いです。表紙は比べるとわかることもあります。ぶっちゃけ最終的には財布と相談です。
表紙で使う色の数については、「4色印刷(フルカラー)」「モノクロ印刷」がほとんどです。金のかかりは4色>モノクロです。なぜなら4色は同じ紙に1色ずつ4回刷るから。お金や表紙デザインと相談して決めてください。「単色印刷(インクの色を選び、その1色で刷る)」とか、「多色刷り(インクを複数個選んで刷る)」とかは仕組みがわかっている人向けなので省略します。
部数については、オフセットの場合多くは50部・30部単位で増減し、最低部数も多いことがままあります。オンデマンドは少部数から発注できるのがほとんどで、印刷所によっては1部刻みで作れることもあります。
かかる日数については普通の料金で頼むとだいたい納品日(たいていはイベント開催当日)の7~14営業日前くらいが締め切りです。締め切りを破ったときには「割増」というのがありますが説明しません。逆に「早割」というのがあり、納品日からめちゃめちゃ余裕をもって入稿すると安くなります。こちらは使いましょう。
いろいろな割引は、印刷所によってさまざまです。先述の「早割」は多くの印刷所に実装されています。あとよくあるのが特定のイベントに納品してもらう場合、ちょっと安くなるという「支援イベント割引(みたいな名前のやつ)」です。そのほか「遊び紙(表紙と本文の間に挟まっているなんかきれいな紙)が無料」とか「いいインクが使えます」とかいろいろありますが、よくわからん場合は「早割をめざす(割増には近づかない)」「イベントが割引対象の場合はちゃんと申し込む」の2点をおさえればいいと思います。
 

紙をどうするか

印刷所と印刷方法が決まりました。本文はもうある(ありますよね?)ので、それを刷る紙を決めます。
紙、それは意味不明な数字とか記号が入っているファジーな名前の何か。プルダウンリストに30個くらい並ぶ紙の名前を見て意味不明になる人も多いと思います。なのでまず紙の名前の構造を説明します。
淡クリームキンマリ90k
これはよく本文で使う紙の名前です。「淡クリーム」:紙の色の名前、「キンマリ」:紙の種類の名前、ここまではまあなんとなくわかります。
「90k」
これが意味不明です、そしてたいていの紙に90kとか72.5kgとかの数字がついてきます。これはなんなのか。平たく言うと「紙の重さ」です。その紙がある単位の枚数(ほんとうはロール状なので面積です)そろったとき、どれくらいの重さになるか。例示のばあい、90kgあることになります。なんのためにそれを表示するのか? それはプルダウンリストを見るとわかります。
淡クリームキンマリ90k
淡クリームキンマリ70k
同じ名前で重さが違う紙があるわけです。この場合(たまに例外はありますが)70kのほうが軽く、軽いということは薄いということです。あなたの本が100ページくらいならあんまり気になりませんが、400ページくらいある場合、薄い紙のほうがいいでしょう。そういうことを決めるために紙の名前の後ろには重さ≒薄さが書いてあるのです。それを踏まえて表紙と本文の紙を選びます。
表紙
いろいろあります。いろいろ選べます。なんでもいいのですが、たいていの印刷所には「基本はこれですね」というアートポスト130㎏とかの紙があります。それでいい。キラキラした「ミランダ」とかが使いたい。使いましょう。でもなんもわからないなら印刷所がお勧めしてくれるやつがいいです。なお表紙は厚すぎると「しなり」が弱くなりめくりにくくなります。
本文
いまは小説の話をしていますが、市販の小説の本(文庫でも単行本でもいいです)の紙を見てください。真っ白ではなくクリームがかっているものが多いはずです。実は真っ白×真っ黒ってコントラストがつきすぎて案外読みにくいので、オタクに向けて刷るときもクリームっぽい色の紙がいいと思います(どうしても真っ白にしたい人はしましょう)。
印刷所によって違いますが、「小説の本文におすすめの紙」みたいなのがだいたい書いてあります。先述した「淡クリームキンマリ」や「美弾紙ノヴェルズ」「書籍用紙」などいろいろあります。これは印刷所の取引先が扱っている紙の種類や、持っている印刷機との相性があります。なので基本は「用意されている紙」から「クリーム色の」「分厚すぎないやつ」を選ぶといいと思います。分厚すぎないやつってなに?ですが、個人的な感覚として本文の紙は分厚くても90kgまで、60~70kg台がめくりやすく、裏写り(裏のページの字が透けて見えるやつ)がないと思っています。
本文の紙を決めると、(ページ数が確定している場合は)本全体の厚さが決まります。最近は計算してくれるところが多い。これは「デザイナーに伝える」「自分で使う」どちらの場合でも必要なのでメモしておきましょう。
 

PP加工をするか

紙でだいぶ消耗していますが最後にこれだけ決めてください。PP加工をするかです。PPって何。それは本のカバーに貼ってあるビニールみたいな質感のテカテカしたシール状のもののことです。これがあると「ほかの本にインクやトナーが移るのを防げる」「シワになりにくい」「濡れにちょっとだけ強い」などのメリットがあります。いっぽうで「紙に印刷したときと色合いが若干異なる」「紙の質感はけっこうなくなる」こともあります。貼ってあるほうが保管が安心だとは思いますが、とにかくどっちかに決めてください。
なおマットPP/ベルベットPPなどと呼ばれるちょっといい感じになるPPや、ホログラムPP(ビックリマンみたいになるやつ)などもあります。やりたかったらやりましょう。
 
はい。以上で「用意するもの」と「決めること」は揃いました。これだけで本が出せるわけではないかもしれませんが、必要最低限の準備にお使いください。なおこの記事では具体的な印刷所や紙の名前はほとんど出していません。それは抽象度を下げると説明することが8倍くらいになるためです。具体的な話(この印刷所を使いたい、このデザイナーさんにお願いしたい、この紙を使いたい)は、その名前で検索するか実際に人間や窓口に問い合わせをするのをおすすめします。こちらからは以上です。